医療的ケア児の保育園受け入れ体制の現状と課題

医療的ケア児と暮らすご家族の中には、お子様が通う保育園の受け入れ体制に不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「医療的ケアは誰が行うのか」
「安全管理が整っているのか」
「そもそも地域に受け入れてくれる保育園があるのか」 など

医療的ケアを必要とするお子様が通う保育園に関する疑問を、小児訪問看護サービスのプロが揃うソイナースが徹底的に解説します。医療的ケア児支援法によって守られる体制について、現代の保育園や自治体が抱える課題など、詳しくご紹介します。

 

医療的ケア児とは?

医療的ケア児とは、自宅での日常生活の中で、次のような医療的ケアを必要とするお子様のことを言います。

  • チューブ等で胃や腸に栄養や水分を注入
  • 痰の吸引
  • 気管切開部の衛生管理
  • インスリン投与
  • 導尿 など

ただし疾患や障害の程度はお子様によってそれぞれに異なるため、主治医や家庭と連携した適切な医療的ケアが欠かせません。

令和3年に厚生労働省が発表した情報によると、日本全国の医療的ケア児は推計約2万人(※1)。これだけ多くのお子様が健全な日常生活を送るために、看護はもちろん、保育の手を必要としています。

 

医療的ケア児が保育園に通う必要性

医療的ケアを必要とするお子様の看護は、保護者と小児専門の在宅訪問看護師が連携して行います。しかし、どのようなご家庭であっても、医療的ケアや介護だけが日常ではありません。安定した生活と看護・介護体制を整えるためにも、保護者の方が働き、収入を得ることもとても重要です。

だからこそ医療的ケア児とそのご家族にとって、保育園の存在はかなり大きいものと言えるでしょう。また子どもの発育という点でも、同年代の子どもたちと集団的な関わりをすることは大切です。

一方で従来では医療的ケア児が親の付き添いなしで保育園や幼稚園に通うことは、難しいとも言われてきました。なぜなら保護者を中心に次の関係機関が連携して、お子様が健やかに成長できる最善な環境を整える必要があるからです。

  • 保育園(幼稚園)
  • 主治医
  • 訪問看護ステーション
  • 自治体等

そういった社会的背景を課題に感じた日本は、令和3年9月に『医療的ケア児支援法』の施行を開始。医療的ケアが必要なお子様と暮らす保護者が、育児やケアを理由にした離職を防止する目的で法体制を整えたのです。これによって安心して育児と仕事の両立ができる環境づくりへと向かっていると言えるでしょう。

 

医療的ケア児支援法と保育園

医療的ケア児支援法によって、医療的ケア児が保育園に通う上で必要な次のような体制が守られています。

  • 医療的ケア児やそのご家族が、どこに住んでいても適切な支援が受けられること
  • 保護者の付き添いがなくても保育園に通えるよう、保育園側で適切な医療的ケアができる保育士や看護師の配置をすること
  • ご家族からの相談に応じるための支援センターを、各都道府県に設置すること

▼医療的ケア児支援法について、より詳しい解説
「『医療的ケア児支援法』とは?目的・取り組み・リアルな支援者家族の声を解説」

 

保育園での医療的ケア…“誰”ができる?

従来では、すべての医療的ケアを行うことができるのは、基本的に次のような人々のみでした。

  • 医師
  • 看護師
  • 医療的ケア児の保護者
  • 医療的ケアを必要とする本人

そのため保育士しかいない保育園では、全ての医療的ケアに対応ができなかったのです。

しかし2011年の「社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正」によって、医療的ケアを行える人の範囲が広がりました。

その改正内容とは、研修を受けた保育士や介護士が「認定特定行為業務従事者」として、医師の指示のもとに一部の医療的ケアができるというものです。

 

認定特定行為業務従事者ができる5つの医療的ケア

「認定特定行為業務従事者」とは、各都道府県で開催する喀痰吸引等研修終了後、都道府県知事から認定特定行為業務従事者認定証を交付された医師や看護師等の免許を持たない人のことを言います。そのため、保育士や介護士、保育園の職員がこの認定を受けることで一部の医療的ケアを行える要になるのです。

また認定特定行為業務従事者ができる医療的ケアは、次の5つです。

  • 経管栄養(胃ろう・腸ろう)
  • 経鼻経管栄養
  • 口の中の喀痰吸引
  • 鼻の中の喀痰吸引
  • 気管カニューレの喀痰吸引

ただし日常生活で必要なこれ以外の医療的ケアは、いずれも看護師が行う必要があります。つまり、例え認定特定行為業務従事者であっても、保育士がすべての医療的ケアを行えるわけではないのです。

 

保育園に通う医療的ケア児の課題

このように保育士だけではすべての医療的ケアに対応できないため、看護師が常駐する保育施設を各地域に設置する自治体も増えてきました。
しかしその運営体制が地域によっては、十分に整っていないことも。つまり医療的ケア児に対応する保育園の地域差が生じているのです。

実際に令和4年に厚生労働省が発表した次の資料を見ても、都道府県別に保育所等での医療的ケア児の受け入れ体制に大きな差があることがわかります。

▼以下、『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)|厚生労働省子ども家庭局保育課』(※2)より引用

『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)|厚生労働省子ども家庭局保育課』

そのため、看護師や認定特定行為業務従事者が常駐する保育園を求めて、引っ越しを検討するご家族も少なくはありません。

 

医療的ケアができる人員、保育環境が整っていない

厚生労働省が医療的ケア児を受け入れている市区町村にヒアリングを行ったところ、医療的ケア児の受け入れに当たっての課題 として「医療的ケアを実施できる看護師を確保できない」という回答が最も多くありました。そして次いで多かった回答は、「利用を希望する子どもに必要な医療的ケアの提供にあたり施設整備が対応していない」。これらの回答を見ても、各市町村が人員確保や保育環境整備に大きな課題を抱えていることがわかります。

▼以下、『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)|厚生労働省子ども家庭局保育課』(※2)より引用

「医療的ケアを実施できる看護師を確保できない」
医療的ケア児のいる市町村71.2%/いない市町村70.4%

「利用を希望する子どもに必要な医療的ケアの提供にあたり施設整備が対応していない」
医療的ケア児のいる市町村49.2%/いない市町村66.4%

<strong>『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)|厚生労働省子ども家庭局保育課』</strong>

小児訪問看護の現場から見つめるソイナースは、それらの課題の背景には次のような事情があると考えます。

 

保育園等の施設での勤務を希望する看護師が少ない

医療的ケアを実施できる看護師はいるものの、保育園等の施設で新たに受け入れ準備を積極的にやりたいという看護師が少ないという現状もあります。

 

自治体や施設側がリスクを恐れる

自治体や施設側でも医療的ケア児の受け入れによって生じるリスクが不明確のため、受け入れをためらっているところも多い印象です。

ソイナースでは、このように保育園等での勤務をためらう看護師や受け入れ体制をためらう自治体のフォローアップをすることで、医療的ケア児が健やかに暮らせる社会になるよう取り組んでいきます。

 

保育園における看護師の確保状況

次に看護師を設置している保育園では、どのように看護師人員を確保しているかについても詳しく確認していきましょう。

同じく厚生労働省が行った市区町村へのヒアリングでは、次のような回答がありました。

▼以下、『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)|厚生労働省子ども家庭局保育課』(※2)より引用

医療的ケア児対応の看護師の配置について
「施設として看護師等を配置している」が73.9%
「市区町村から看護師等の派遣を受けている」が7.5%
「地域の訪問看護事業所を利用している」が7.1%

外部から看護師等の支援を受ける場合の形態
「医療的ケア児の利用時間は常駐」が46.4%
「必要に応じて呼び出し」が28.6%

『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)|厚生労働省子ども家庭局保育課』

このように医療的ケア児に対応する看護師の配置は、施設や自治体によってその体制はそれぞれに異なります。ただし共通して言えることは、医療ケアを実施できる看護師を配置することがゴールではないということです。あくまでも医療的ケア児1人ひとりの状況としっかり向き合い、お子様を取り巻く環境に考慮していく必要があるのではないでしょうか。

 

ソイナースの保育園での活躍

ソイナースでも実際に、訪問看護を以前から利用していた利用者様が保育園を利用することになり、そこをソイナースの看護師が入らせていただくことになったケースもあります。
保育園側が配置した看護師ではなく、普段からお子様の様子を理解してきたソイナースの看護師が寄り添うことで、次のようなメリットが生まれています。

  • 保育園の先生との十分な連携
  • 親御さんの安心感

結果、お子様にとって最適な環境を作ることができていると考えています。

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保育園での医療的ケアを安定させるために

医療的ケアを必要とするお子様とそのご家族の健やかな生活にとって、大事な役割を担う保育園。ただし、保育園で医療的ケア児を受け入れる体制には、「人員不足」や「環境整備」など社会的にまだまだ課題も存在します。

あらゆる課題を乗り越え、安定した保育環境で医療的ケア児を受け入れるためには、保護者・医療機関・保育園、そして看護師との協力関係が欠かせません。さらに地域差が生まれることなく各自治体があらゆるリスク対策を乗り越え、適切な体制を確保してくれることが大きな希望となります。

いずれにおいても重要視すべきは、医療的ケア児本人と保護者の意向をしっかり考慮していくこと。保育士や看護師、それぞれが専門的知識を活かしながら、お子様1人ひとりにあった環境を整えていくことが、医療的ケア児の安定した日常生活につながるのではないでしょうか。

もしも保育園の受け入れ体制について不安があれば、ソイナースまでお気軽にご相談くださいね。

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※1 『医療的ケア児支援センター等の状況について(令和4年度 医療的ケア児の地域支援体制構築に係る担当者合同会議)』|厚生労働省

※2 『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて(令和4年9月30日)』|厚生労働省子ども家庭局保育課

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