医療的ケア児とは?課題や支援制度について

現在の日本における出産や新生児を取り巻く環境は、世界的に見てもトップクラスの水準と言われています。

目覚ましい医学の発展を背景に、以前では助けられなかった多くの命が救命できるようになりました。それによって大きな課題となっているのが、全国に約2万人存在すると言われる「医療的ケア児」への支援です。

今回は、令和3年に施行された医療的ケア児支援法についても触れながら、医療的ケア児の定義や現状、現在の課題や支援制度について詳しく解説します。

 

医療的ケア児の定義とは?

医療的ケア児とは、様々な疾患や障がいにより医療的ケアを必要とする子どものことを言います。医療的ケア児は、人工呼吸器や気管カニューレといった何かしらのデバイスを使用しながら、医療的ケアや支援を受けながら日常生活を送っているのです。

  • 人工呼吸器や気管切開部などの衛生管理
  • たんの吸引
  • チューブやカテーテルから栄養を補給
  • インスリンの投与 など

このような持続的なケアを必要とするお子様やご家族を社会で支えていくための法律として、令和3年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)が施行されました。

 

医療的ケア児の増加傾向

出典:医療的ケア児等の支援に係る施策の動向|厚生労働省

現代日本では出生率は低下しているにも関わらず、医療的ケア児の数は全国的に増加傾向にあります。厚生労働省の発表した上の表を見ると、平成30年時点の医療的ケア児の数は約2万人。平成17年から平成30年の13年間で、医療的ケア児の数が約2倍と急激に増加しているのです。

特に0歳~4歳までの増加が顕著に現れ、人工呼吸器の管理が必要な児童も乳幼児が最も多かったとの調査結果が出ています。

このように増加した医療的ケア児に対応するため、医療・支援スタッフの拡充やこれまで以上の充実した支援が求められているのです。

 

医療的ケア児とその家族の課題

医療的ケア児の増加を受けて、政府は法整備や支援体制の強化に努めています。しかし令和3年に施行された医療的ケア児支援法も施行されて間もないことから、課題や問題点も多く見られます。また医療的ケア児の存在は認知されつつあるものの、高齢者支援と比較すると体制が脆弱な部分も大きな課題と言えるでしょう。

このため現在の医療的ケア児の日常生活では、寝る間を惜しんで介護を行う家族の努力が欠かせない状態なのです。

では具体的に、現在の医療ケア児を取り囲む環境にはどのような課題があるのか、詳しく見ていきましょう。

 

(1)働きたくて出かけたくても預け先がない

自宅での生活が基本となっている医療的ケア児を介護するご家族にとって最大の課題は、預け先が少ないことです。医療的ケア児支援法の目的として、「医療的ケア児の健やかな成長を図るととも に、その家族の離職の防止に資する」とありますが、預け先がないため離職せざるを得ないご家族も多く見られます。

一方預け先となる放課後デイサービスや学童保育では、医療的ケア児の受け入れ体制が整っていない場合も多いことも、家族の負担が大きくなる要因なのです。

施設側の看護師不足

施設側が医療的ケア児を受け入れられない原因として、看護師不足が挙げられます。医療ケアが必須であり、医療行為は医師や看護師にしか行うことができません。全国的に看護師が不足しており、医療依存度の高い医療的ケア児は断られてしまうことも多いとか。

また、入院するとなると夜勤で動ける看護師が必要ですが、夜勤の看護師がいないことから入院できないケースもあり、大きな課題と言えそうです。

レスパイト入院の難しさ

レスパイト入院とは、介護者の休息や一時的な外出などの目的で、病院に一時的に入院できる制度です。ただしレスパイト入院を受け入れている病院には限りがあり、退院してもすぐに次の予約で埋まってしまいます。そのため計画的に利用することが難しいと言えるのです。また、リフレッシュや休息ではなく、検査やカニューレ交換などの名目でしか入院できない病院もあります。

身体障害のない医療的ケア児の場合、十分な観察が難しく、カニューレや胃瘻を抜いてしまうリスクから同伴のみの入院となる場合も少なくありません。

 

(2)相談できる場所が少ない

医療的ケア児支援法では、各都道府県に医療的ケア児支援センターの設置が義務付けられました(令和4年中に36都道府県に設置※1)。支援センターでは、医療ケア児等コーディネーターや社会福祉士に相談できます。しかし福祉の専門家であるため、高度医療ケアには精通していない場合も。

一方でかかりつけ医や病棟の看護師へ相談しようにも、退院後に長く話すことは難しい現状があるため、どこに相談すべきか悩んでしまう方も多いようです。

 

(3)子どもの急変時の対応

急変対応や医療面での不安を抱えながら過ごしているご家族も、少なくはありません。日中は訪問看護が入りますが、夜間の対応は家族自身で行うしかないのです。

  • 「こういう時はどうしよう」
  • 「寝たらアラームが聞こえないんじゃないか」

そんな不安で眠れないという悩みの声もあります。

また、急変時にかかりつけ医の病院での受け入れ義務はなく、急変時の対応について明確にされていない場合も考えられるでしょう。

 

医療的ケア児の支援制度について

さまざまな課題の残る医療的ケア児の介護ですが、医療的ケア児支援法の施行に伴い、支援制度が拡充されつつあります。

ここでは、医療的ケア児の支援制度について分野別に解説します。

 

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」による変化

医療的ケア児支援法では、主に下記の点が大きく変わりました。

  • 支援措置すなわち「努力義務」から「責務」になった
  • 医療的ケア児支援のための予算が配分される
  • 看護師や保健師など医療ケアを実施できる人員の拡充
  • 各都道府県に医療ケア児支援センターの設置
  • 小児慢性特定疾病の医療費助成の疾病数を拡大
  • 救急時に素早く対応できるよう医療的ケア児等医療情報共有サービスの運用

特に表現が「責務」とより強い言葉になったことで、今後も停滞していた支援制度が見直される可能性があります。

 

「医療」における支援制度

医療分野においては、主に医療費の助成や補助についての支援があります。

  • 未熟児養育事業
  • 小児慢性特定疾病医療費
  • 難病医療費

支援制度を利用するためには、市町村や都道府県への届け出が必要となります。

 

「子育て」における支援制度

子育て支援では、保育所や放課後児童クラブの活用ができます。医療的ケア児を受け入れている施設は少ないのですが、なかには政府からの補助を活用して、看護職員を配置している施設もあるのです。

そのなかでも「居宅訪問型保育事業」は、集団保育が困難な保育を必要とする乳幼児に対して、小規模もしくはマンツーマンでの保育を提供しているため注目を集めています。

各市区町村が窓口となっているため、市役所に問い合わせてみましょう。

 

「保健」に関する支援制度

保健分野では、医療的ケア児とそのご家族が健やかで自立した生活を送れるよう、次のような支援や事業が行われています。

  • 福祉用具の給付
  • 介護者支援事業
  • 小児慢性特定疾病自立支援員の設置
  • 医療機関へのレスパイトを支援する「療養生活支援事業」
  • 医療的ケア児のお子様やそのご家族のための交流会の開催
  • パソコン教室・個別学習指導など特定疾病を持つ患児への自立支援事業

 

「障害福祉」に関する支援制度

障害福祉に関する支援制度は多岐に渡りますが、主に2種類の支援があります。

 

(1)日常生活支援

  • 療育の必要性がある児に対する「発達支援事業」
  • 介護者の負担軽減を目的とした放課後デイサービス・短期入所などの支援事業

施設に入所している障害児に対して、保護や日常生活の指導を行う障がい児入所施設は、手帳がない場合でも必要性を認められれば入所できる場合もあります。

 

(2)手帳の交付・手当

身体上の障害がある場合には「身体障害者手帳」が、知的障害がある場合には「療育手帳」が交付されます。それぞれ都道府県への申請が必要です。

手当もそれぞれ都道府県への申請することで支給されます。

  • 精神又は身体に障害を有する児童の父母に支給される「特別児童扶養手当」
  • 重度障害児に対して支給される「障害児福祉手当」
  • 毎月掛け金を収めることで、保護者が亡くなった場合でも障害のある方への手当が支給される「障害者扶養共済制度(任意加入)」

 

「教育」に関する支援制度

教育に関しての支援では、医療的ケア児とそのご家族が教育に集中できる環境を整えるためにも、次のような支援を行っています。

  • 小中学校の普通学級に通っている障害のある児童生徒への個別指導計画・教育支援計画作成や援助
  • 教育相談
  • 就学相談 など

また通学費、学校給食費、学用品費等の就学に必要な経費の援助を行う「特別支援教育就学奨励費」も上手に活用していきたい制度です。特別支援学級の児童は都道府県で、普通学級の児童は市区町村での手続きが必要となります。

 

SoiNurse(ソイナース)について

「すべての子どもとその家族、そして看護師が健やかに生きる社会をつくる」という想いから生まれたSoiNurse(以下、ソイナース)。

ソイナースでは、医療的ケア児における社会の課題と真摯に向き合い、医療的ケア児だけでなくすべてのお子さまやご家族に利用していただけるサービスを提供しています。

ここでは、ソイナースの主なサービス内容について説明します。

 

(1)訪問看護

ソイナースの訪問看護事業では、ご家族の意向を聞きつつ、お子さまの成長・発達を最大限サポートできる体制を整えています。

下記にある「在宅療養支援」や「通園・通学支援」は、次の条件を満たす方であればご利用可能です。

 

利用条件

  • 医療保険にご加入の方
  • 医師による訪問看護指示書の範囲内で利用される方

 

利用料金

  • 6歳未満:2割負担
  • 6歳以上:3割負担

乳幼児医療費助成制度(マル乳)もしくは義務教育就学児医療費の助成(マル子)をお持ちの方であれば、交通費のみでサービスを受けることができます。

 

(2)在宅療養生活の支援

在宅療養生活における支援としては、質の高い日常生活援助はもちろん、より良い療養ができるよう保護者様と一緒に考えながらケアを行っています。訪問する看護師は、小児看護について研修や講義を通してしっかり学んでおり、保育に対する知識も豊富です。

また医療ケア児在宅レスパイト事業にも対応しております。訪問看護時間に加え、2〜4時間の範囲(1年間で144時間)の利用が可能となっています。
※お住まいの自治体により制度が異なります。

 

(3)通園・通学支援

ソイナースでは、保育園や学校と連携し、学校や保育園での付き添いサービスも行っています。

  • 吸引や経管栄養など医療的ケア
  • 医療的ケア児の通園・通学サポート
  • 主治医や養護教諭との連携・調整

 

(4)コントラクトサービス(自費サービス)

ソイナースでは、自費によるコントラクトサービスも行っております。

「保育園に預けていないが、子どもを見ていてほしい」
「決まった時間に出かける予定があり子どもの預け先に困っている」
このようにお子様の預け先に悩むご家族にオススメのサービスです。

医療的ケア児や障がい児だけでなく、病児や健常児も利用できるサービスとなっています。

 

主なサービス

  • 障がい児のケア(医療ケアには医師の指示書が必要)
  • 病児や病後児のケア
  • 習い事や学校から帰宅までの送迎

 

まとめ

医療的ケア児を持つさまざまな保護者の声もあり、医療的ケア児への認知は広がりつつあります。支援法の施行に伴い改善された部分も多い反面、まだまだ解決すべき課題も残存しています。より多くの医療的ケア児や、そのご家族を支えられる環境を、社会全体で考えながら整えていかなければなりません。

ソイナースでは、お子さま本人はもちろん、医療的ケア児を抱えるご家族も継続的にサポートできる体制を整えています。

少しでも気になった方は、お気軽にご相談ください。

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