医療的ケアを必要とするお子様が自宅で暮らすためには、医療・介護の観点で十分配慮した環境を整えることが大切です。
だからこそお子様の退院が決まり、喜びの半面、医療的ケアがしやすい住まいづくりに悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、医療的ケア児が快適に暮らすための部屋、住まいに関する課題と、条件について詳しく解説します。
医療的ケア児が安心できる“部屋”の重要性
厚生労働省が令和4年に発表した情報によると、日本には現在約2万人(※1)の医療的ケア児が生活していると言われています。
医療的ケア児とは、病気や障がいによって医療的ケアを必要としている18歳未満の子どものことです。病院を退院しても、在宅で医療的ケアを必要とするお子様のなかには、身体が不自由であったり、寝たきりであったりと、気軽な外出が難しい方も多くいらっしゃいます。
だからこそ、日常の多くを過ごす部屋は、とても大切な存在なのです。
医療的ケア児が在宅で生活する“部屋”の課題とは?
2006年12月20日、我が国に「バリアフリー法」ができました。これは高齢者や身体が不自由な方、障がい者の方々が快適に移動できる社会を促進する法律です。
これは建物だけでなく、道路、公共交通機関、公園などを、バリアフリーを必要とする人が負担なく移動できるように制定されました。
しかしこの法律が制定されても、日常生活を過ごす「住まい」のバリアフリー化は順調に進んでいるとは言い難い状況だったのです。
暮らしを変える「障害者差別解消法の制定」と「合理的配慮の提供の義務化」
実際にかつての不動産業界では、賃貸物件を探す障がい者への差別的扱いもありました。
- 電話問い合わせの時点で障がい者と告げると断られる
- 物件広告に「障がい者不可」と書かれている
- 根拠もないのに「火災を起こす危険性がある」と決めつける
- バリアフリーの物件なのに、内覧時に車いすでの屋内移動を拒否する など
悲しいことですが、障がいや日常生活にハンデがあることを理由に不動産の提供を拒む業者も実在したのです。この点を考えると、当時医療的ケア児と生活する家族は、住まい選びに多く悩まされたことでしょう。
そこでこのような障がい者差別をなくすため、2021年には「障害者差別解消法」が制定。不動産業はもちろん、店舗や施設などの事業者が、障がいを理由にした差別的な扱いをすることが法的に禁止されました。
さらに2024年4月、事業者が障がいや日常生活にハンデがある人に「合理的配慮の提供」をすることが義務付けられました。
これによって不動産業者は、障がい者やその家族が物件を探す際に、次のような配慮をすることが義務付けられたのです。
- 国の助成制度でバリアフリーに改修された住居の紹介
- 内覧の際に移動をサポートし、丁寧に案内する
- 車いすでも安全に移動できる駅までの安全な道のりを一緒に確認
この他、「特別扱いできない」「何かあったら困る」のように障がいを理由に支援を断ることは法的に禁止されました。
とはいえ、まだまだ制定されたばかりの法律。これがどこまで守られるのか、まだまだ観察段階にあると言えるでしょう。
そのため医療的ケア児と生活するご家庭では、家を購入して、医療的ケアに適した住まいにリフォームする…というケースが多いのです。
医療的ケアに適した住まいの条件
では実際に、医療的ケア児と生活する環境を整えるとなれば、どのような点に注目すべきなのでしょうか?医療的ケア児の部屋だけでなく、あらゆる生活スペース別に注意すべき点を確認しましょう。
医療的ケア児の生活スペース<寝室やリビングなど>
医療的ケア児との生活では、次の2つの点がとても重要です。
- 適切な生活リズムを保つこと
- 家族のプライバシーを守ること
最善な在宅看護を行うためには、家族の心身の健康が欠かせません。だからこそ、いくら寝たきりのお子様であっても、「寝る場所」「日中を過ごす場所」を分けることはとても大切に。
この他、在宅看護に必要な医療機器や福祉用具が置かれるため、次の点にも配慮が必要です。
- 家族や看護師、ヘルパーがケアをしやすい導線
- コンセントの数と位置(必要であれば医療用コンセントの設置)
- 家事をしていてもお子様の見守りができる間取り
- 家族のプライベート空間に医療従事者や介護者が立ち入らない間取り
浴室
入浴は健康と清潔のためにも重要です。しかし、狭い浴室で介助をするのはとても大変です。
次の点を心がけてして、安全な入浴環境を整えましょう
- バリアフリーの出入り口
- 広めの浴室スペースの確保
- 出っ張りのあるカウンターや照明器具は置かない
- リフト設置ができる補強材の入った浴室内
- 浴室暖房や冷房など気温調整ができる
- 滑りにくくクッション性がある洗い場
- 車いすや簡易ベッドが置ける広い脱衣所 など
また浴室の環境を整えるだけでなく、無理のある入浴介助も禁物。特にお子様が大きくなると、滑りやすく不安定な浴室で1人で入浴介助をするのは難しくなるでしょう。
- 2人以上で入浴介助をする
- 訪問入浴サービスを利用する など
このような体制を取り始める目安は、お子様の体重が15kgを超えた頃から。ご家族の負担が少ない体制を整えることが、利用者様はもちろん、ご家族皆さんの快適な暮らしにつながるのではないでしょうか?
外の環境
医療的ケア児のお子様は家で過ごす時間が多いとはいえ、通院や特別支援学校への通学など、外出の機会も少なくはありません。
だからこそ、玄関やその周辺で移動がしやすい環境であることがとても大切です。
- 車いすがスムーズに通れるバリアフリーの玄関ドア
- 車いすが通りやすい凹凸の少ない玄関アプローチ
- 高低差がある場合、スロープや車椅子昇降機を置けるスペース
- 特別支援学校の送迎車が停車できるスペースと道路環境
地域の医療的ケア児コーディネーターに相談しながら、最適なお出かけ環境を整えましょう。
▼住まいと一緒にぜひ確認していただきたい、災害対策についての記事はコチラ
医療的ケア児と家族の災害対策【2024決定版】
医療的ケア児が快適に暮らせる住まいのために
お子様の退院はとても嬉しいものの、医療や介護の設備と配慮が整った病院に比べると、自宅の環境に不安を感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし、そんな時はご家族だけで抱え込まず、主治医やケアマネジャー、医療的ケア児コーディネーター、そして日々の在宅看護を行う訪問看護師に相談してみてください。
医療的ケア児のお子様と暮らす多くの家、部屋を見ている訪問看護師だからこそ、アドバイスできることもあります。ソイナースでは、医療的ケアの提供だけでなく、患者様とご家族に寄り添ったフォロー体制を心がけておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
※1 『医療的ケア児支援センター等の状況について(令和4年度 医療的ケア児の地域支援体制構築に係る担当者合同会議)』|厚生労働省