2023年度に表明された「こども誰でも通園制度」。
就労や介護などの事情に問わず、子どもを保育園に預けることができるとして社会支援の充実が期待されるこの制度ですが、2026年の本格実施に向けて注目されるメリットと課題があります。
「こども誰でも通園制度」は全ての子育て家庭のライフスタイルを豊かにするのか、小児看護の現場を見つめるソイナースが徹底解説します。
「こども誰でも通園制度」とは
「こども誰でも通園制度」とは、親が働いているかどうかに関わらず、未就学の子どもを保育施設等に預けることができる制度のことを言います。
「こども誰でも通園制度」を実施する目的
「こども誰でも通園制度」は、未就学の子どもとその保護者の支援のために作られた制度です。
主な目的は、次の2点。
● 同世代の子ども同士が関わることで発達を促す
● 保護者の育児負担を軽減し、孤立感を解消する
子どもがすくすくと育ち、子育て家庭がより充実した生活を送る未来のために、注目されている事業です。
対象 | 生後6カ月~3歳未満の子ども |
施設 | 保育所・認定こども園・地域型保育事業所・幼稚園・地域子育て支援拠点事業所など |
「こども誰でも通園制度」で変わる【利用条件】
では実際に、「こども誰でも通園制度」が実施されることで、現在と何が変わるのでしょうか?具体的には、保育施設の「利用条件」が変わります。
現在
保護者及び子育て家庭が、以下のような事情にある場合に利用可能です。
- 就労・就学・休職中
- 妊娠・出産
- 病気・障害
- 親族の介護・看護
- 虐待やDVの危険性がある
こども誰でも通園制度導入後
仕事をはじめ子どもを預ける特別な事情がなくても、保育施設を利用することができます。
ただし、「こども誰でも通園制度」で預けることができるのは、「時間単位」。つまり毎日保育施設に預けるためには、これまで同様の利用条件が必要となります。
時間単位の預かりでは、現在も全国1269の自治体で「一時預かり事業」が実施されていますが、「こども誰でも通園制度」では全ての自治体で実施すると想定されています。
「こども誰でも通園制度」の本格始動は2026年
「こども誰でも通園制度」は、2023年6月の「こども未来戦略会議」で政府がその創立を表明。2026年の本格実施を目指しています。
ただし正式な制度化をするためには、実際の課題調査が欠かせません。そのため2023年度から全国31の自治体で、2024年度からは115の自治体(※1)で「こども誰でも通園制度」のモデル事業(試行的事業)を実施しています。
「こども誰でも通園制度」の試行的事業とは
「こども誰でも通園制度」の試行的事業は、市町村や保育施設の事業者自身が課題検討や整理することを目的に実施されています。
試行的事業で設けている預かり時間は、1人当たり「月10時間」「年120時間」。
例えば、1日2時間ずつ利用したり、月1回10時間連続で利用したりすることができます。こうして子ども達が環境に慣れることで、「こども誰でも通園制度」を実施する本来の目的が達成できると考えられた試みです。
契約形態は、自治体と連携する各事業所との直接契約となるため、例え同じ自治体でも料金は施設によって異なります。ただし、自治体の補助金が出ているため、民間の保育施設を利用するのと比べると、金銭的負担は大幅に軽減されています。
では実際に、各自治体が行っている「こども誰でも通園制度」の試行的事業の実例を確認していきましょう。
※下記は、2024年6月時点の情報です。最新の情報は、各自治体にお問合せください。
事例その①【東京都港区】
利用期間 | 2024年4月1日~2025年3月31日 |
対象者 | ●港区民(住民登録地) ●2018年4月2日から2023年12月1日生まれ |
利用時間 | 9:00~17:00 |
実施施設 | 2カ所 ●区立伊皿子坂保育園 ●旧南麻布三丁目保育室 |
利用料金(※) | 【区立伊皿子坂保育園】 1,500円/5時間以内 3,000円/5時間超 【旧南麻布三丁目保育室】 1,100円/4時間未満 1,650円/4時間以上6時間未満 2,200円/6時間以上8時間以下 |
※次のような場合は、利用料金が免除されます。
- 生活保護受給世帯
- 住民税非課税世帯
- 第二子以降の子ども
上記参照:『みなとこども誰でも通園事業(港区)』
事例その②【兵庫県神戸市】
利用期間 | 第Ⅰ期:2024年6月3日~10月31日 第Ⅱ期:2024年11月1日~2025年3月31日 |
対象者 | ●神戸市民(住民登録地) ●0歳6か月~2歳 |
利用時間 | 9:00~17:00 ※利用時間の単位は、各施設によって異なります。 例)御影COCORO保育園の場合▼定期利用方式 9:00~13:00 11:30~15:30 月~金 月4回 各2.5時間 ▼自由利用方式 |
実施施設 | 23カ所 ●幼保連携型認定こども園神戸夢 ●御影COCORO保育園 ●幼保連携型認定こども園神戸さくら保育園 ●幼保連携型認定こども園光愛児園 ●大慈幼保連携型認定こども園とも分園 ●幼保連携型認定こども園ポートピア ●幼保連携型認定こども園モーツァルト兵庫こども園 ●松原保育所 ●幼保連携型認定こども園桜の宮こども園 ●幼保連携型認定星の杜こども園 ●パンダこうとく保育園 ●幼保連携型認定こども園新生こども園 ●幼保連携型認定こども園ほそだ ●神視保育園 ●幼保連携型認定こども園村雨こども園 ●幼保連携型認定こども園のぞみ保育園 ●名谷フォレスト保育園 ●幼保連携型認定こども園明舞幼稚園 ●幼保連携型認定こども園彩の森 ●小規模保育園 あんよ ●幼保連携型認定こども園おっこう山 ●幼保連携型認定こども園あゆみ幼児園 ●学園みどりこども園 |
利用料金(※) | 300円/1時間 ※おやつは給食がある場合は、実費負担 |
※次のような場合は、利用料金が免除されます。
- 生活保護受給世帯
- 当該年度市町村民税所得割課税額合計が77,100円以下の世帯
- 社会的養護が必要な世帯
上記参照:『神戸市こども誰でも通園制度モデル事業(神戸市)』
事例その③【福島県福島市】
対象者 | ●福島市民(住民登録地) ●0歳6か月から3歳未満 ●保育所や幼稚園、認定こども園等に在園していない児童 ●認可外保育施設の内、企業主導型保育事業所に通園していない児童 |
利用時間 | 9:30~15:30 |
実施施設 | 1カ所 ●ふくしま信陵子育て支援センター ぽれぽれ |
利用料金 | 0・1歳児:700円/1時間 2歳児:600円/1時間 |
上記参照:『福島市こども誰でも通園モデル事業』
このように自治体によって、事業の形も様々です。この点から考えると、本格実施後に起こりえる制度の地域格差も心配ですね。
「こども誰でも通園制度」3つのメリット
政府が子どもと子育て家庭のために実施しようとしている制度だということはわかっても、具体的に「こども誰でも通園制度」が実施されることで、どのようなメリットが発生するのかイメージがつかない方も少なくないことでしょう。
そこで次に、「こども誰でも通園制度」の実施によって子どもと子育て家庭にもたらされる、3つのメリットを紹介します。
1. 育児の負担を軽減
2. 子どもの発育に刺激を与える
3. 専門家に相談できる環境
メリット①:育児の負担を軽減
育児をしていると、家庭の中で過ごすことが増えて、社会から孤立した感覚を経験したことはありませんか?特に核家族化が進む近年では、周囲に頼れず、育児の負担の大きさに悩まされる家庭も多いことでしょう。
そのため、「こども誰でも通園制度」によって、短時間でも預け先があることで保護者の安心感や気分転換になると考えられています。子育て家庭が、心身共に健康でいるためにも、「こども誰でも通園制度」を有意義に活用したいですね。
メリット②:子どもの発育に刺激を与える
「こども誰でも通園制度」の対象となる、0歳〜2歳児の子ども達にとって、同年代の子どもとの関わりによって得られる刺激や影響は発達を促すものだと言われています。
しかし、保育園に通っていないお子さんの場合、その機会は少なくなることでしょう。
だからこそ「こども誰でも通園制度」を有効活用して、子どもの成長を促す機会としてみてはいかがでしょうか?
メリット③:専門家に相談できる環境
「こども誰でも通園制度」で利用する保育施設には、次のような専門知識を持つプロフェッショナルがいます。
- 育児の専門的知識を持つ【保育士】
- 栄養と食育の知識を持つ【栄養士】 など
家庭内では解決できずにモヤモヤしている悩みや不安を、専門家に相談できる環境を設けることでより安心した暮らしにつながることでしょう。
「こども誰でも通園制度」の課題
子ども、そして保護者にとっても大きなメリットがある「こども誰でも通園制度」事業ですが、新規事業だからこそ抱える課題もあります。
それは、主に保育施設側や自治体が向き合わなければいけない課題。そのなかでも深刻とされているのが、「保育施設の人員不足」。
こども家庭庁が発表した調査結果によると、保育士の有効求人倍率は年々増加傾向にあります。(※2)つまり現代の日本では、求職している保育士よりも、人材を求める保育施設の方が圧倒的に多いのです。
2024年1月:3.54倍
2023年1月:3.12倍
2022年10月:2.49倍
もしもこの現状課題が解決することなく、「こども誰でも通園制度」が本格実施された場合、保育士1人当たりの負担が大きくなると懸念されています。そのため、「こども誰でも通園制度」によって、子育て家庭と保育の現場が円滑に連携されるためにも、保育士不足は早急に対策すべき課題と言えるでしょう。
「こども誰でも通園制度」は医療的ケア児も対象?
子育て家庭のライフスタイルの変化が期待される「こども誰でも通園制度」ですが、“誰でも”と掲げている一方で、病気や障がいによる事情で保育園に通えない子どもたちが利用する「居宅訪問型保育」は事業の対象外になると想定されています。医療的ケア児や障がい児は、日常生活はもちろん、感染リスクの観点からも1対1の保育が求められるケースが多いため、居宅訪問型保育しか保育の選択肢がないことも少なくはないのです。
しかし政府の検討会においても、「医療的ケア児や障がい児とそのご家族を支援するため居宅訪問型保育が事業形態に含まれるべきか…」論議されているものの、2024年6月時点で対象となるという決定には至っていないのです。
医療的ケア児支援法によって、医療的ケアを必要とするお子さんの社会的支援が求められるなか、居宅訪問型保育が「こども誰でも通園制度」の対象外となる自体は、小児看護の現場を日々見つめる私たちソイナースにおいて、とても残念に感じています。
▼医療的ケア児支援法について、より詳しい解説
「医療的ケア児の移動支援・送迎サポートについて」
【ソイナース】小児看護の現場から感じる不安
日々小児看護の現場を見つめるソイナースでは、「こども誰でも通園制度」について次のような不安点を感じています。
①医療的ケア児の利用可否について議論不足
「こども誰でも通園制度」は実施に向けて試行的事業が行われているものの、まだまだ制度そのものへの認知度はそう高くありません。そのため、政府や自治体はもちろん、実際の子育て世代の声としても、医療的ケア児が利用できるかどうかまで議論されていないように思います。
②「誰でも」に対応していない環境整備
「誰でも」という制度ではあるものの、障がい児や医療的ケア児が利用する場合、介助員や看護師等の医療ケアをする人員が必要となります。さらにはケアをする場所等の環境整備も不可欠です。つまり、「誰でも」と掲げるには、やや課題が多すぎるように感じているのです。
全てのお子さんとそのご家族が平等に、豊かな生活を送れる社会になるよう、今後の動向に期待していきたいですね。
またソイナースでは、今後も「こども誰でも通園制度」の最新情報について、発信していきます。その他医療的ケアを必要とするお子さんの看護、保育について、疑問や不安がある方は、ぜひお気軽にソイナースまでご相談ください。
※1 『こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会』2024年4月26日時点 モデル事業実施自治体|こども家庭庁