『医療的ケア児支援法』とは?目的・取り組み・リアルな支援者家族の声を解説

医療的ケア児とその家族を支える法律『医療的ケア児支援法』。2021年9月に施行されたものの、「どのような法律なのか」「日常の医療的ケアにどのような影響があるのか」、まだよく知らないという方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、医療的ケア児支援法が制定された目的や実際の取り組みについて詳しく解説します。

また弊社ソイナースの利用者様が感じる医療的ケア児支援法後のリアルな実態、満足度も徹底リサーチ。医療的ケア児支援法を上手に活用する方法やその未来を一緒に考えてみませんか?

医療的ケア児支援法とは

医療的ケア児支援法とは、日常生活を過ごす上で医療的ケアを必要とするお子様(医療的ケア児)とそのご家族を、社会で支援するための法律です。2021年6月に国会で法律が成立、同年9月から施行された比較的新しい法律と言えます。

では実際に、医療的ケア児支援法がどのような目的と背景で制定されたのか、詳しく確認していきましょう。

医療的ケア児支援法|制定の背景

厚生労働省の資料によると、自宅で日常を過ごす医療的ケア児は、平成17年時点で全国約9,987人。令和3年時点では、約2万人にまで増加しています。(厚生労働省調べ ※1)。

こうした背景の中で大きな課題となるのが、医療的ケア児が健やかなに育つための支援。手厚い支援が必要不可欠な一方で、そのご家族の仕事や日常への影響がでるというのが実態です。

少子化と言われる現代において、安心して子どもを育てることができる社会を実現することは日本社会全体が向き合っていくべき長年の課題。だからこそ医療的ケア児支援法は、地域や教育現場といった社会全体で医療的ケア児を支援するために作られました

医療的ケア児支援法|3つの責務と取り組み

医療的ケア児支援法は、次のような基本理念の元、取り組みが行われています。

以下、 『医療的ケア児支援センター等の状況について(厚生労働省)』引用

  1. 医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援
  2. 個々の医療的ケア児の状況に応じ、切れ目なく行われる支援(※)
  3. 医療的ケア児でなくなった後にも配慮した支援
  4. 医療的ケア児と保護者の意思を最大限に尊重した施策
  5. 居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられる施策

※医療的ケア児が医療的ケア児でない児童等と共に教育を受けられるように最大限に配慮しつつ適切に行われる教育に係る支援等

この基本理念を実現するために、3つの機関それぞれに医療的ケア児とそのご家族に対する支援の責務が定められました。

  • 国や地方自治体
  • 保育所、学校等
  • 医療的ケア児支援センター(各都道府県)

では次に、この3つの機関がそれぞれ、どのような目的を持っているのか、その取り組みについて詳しく解説します。

医療的ケア児支援センター|役割と取り組み

医療的ケア児支援センターとは、医療的ケア児とその家族からの相談を受けるために各都道府県に設けられた施設です。

医療的ケア児支援センターに届く相談 例

  • 「仕事と育児を両立が難しい」
  • 「医療的ケア児以外の兄弟を育児する余裕がない」
  • 「緊急時の預け先がない」 など

こうした相談を受けた医療的ケア児支援センターが、支援の必要性についての情報を各市町村にある学校や医療機関、訪問看護ステーションなどの支援の現場と共有します。

さらに医療的ケア児支援センターでは、次のような取り組みも行われています。

  • 医療的ケア児の支援に関する情報収集や発信
  • 医療的ケア児等支援者養成研修等の実施
  • 医療的ケア児の生活で必要な地域関連機関へのアドバイス など

つまり医療的ケア児支援センターは、医療的ケア児とそのご家族と社会の連携機関をつなぐ役割を持っているのです。このような施設が都道府県に設けられることで、「どこに相談するべきか…」と悩むことなく、適切な相談とスムーズな支援につながることが期待されます。

国や地方自治体|役割と取り組み

国・地方自治体は医療的ケア児とそのご家族に対して、次のような支援をすることが求められています。

  • 日常生活に関する支援
  • 保育所や学校における支援
  • 支援に必要な人材の確保
  • 医療的ケアに関する相談体制
  • 正しい情報を的確に共有する仕組み など

こども家庭庁が発表している資料(※2)によると、医療的ケア児とその家族の支援のために令和6年度では15もの事業が予定されています。では、具体的にどのような事業が行われるのか、確認していきましょう。

医療的ケア児の支援に向けた主な取組 例(一部のみ)

  • 地域療育支援施設運営事業

病院に長期入院しているお子様が自宅で生活するためには、保護者が必要な知識や技術を身につける必要があります。この事業ではそのためのトレーニング施設を地域で運営するための費用が補助されます。

  • 日中一時支援事業

医療ケア児を介護するご家族の負担を軽減するため、一時的な受け入れ先になる医療機関に経費を補助する事業です。

  • 在宅医療関連講師人材養成事業

地域社会で在宅医療を支える仕組みを実現するため、在宅医療や訪問看護の専門知識や経験が豊富な人材を育てることが求められます。そのため、養成に必要な講師の確保や地域体制の整備を行う事業として予算案が出ています。

このような事業が実現されることで、地域社会で医療的ケア児とそのご家族への支援体制がより一層整うことが期待されます。

保育所、学校等|役割と取り組み

保育所や学校で医療的ケア児が健やかな日常を送るためにも、医療的ケアができる人材が欠かせません。そのため各地方自治体と連携しながら、看護師や医療的ケアができる保育士を配置することが求められています。

これによって従来では保育所や学校に通えなかった医療的ケア児が、安心して通える体制が整っているのです。

医療的ケア児支援法ができて社会は変わった?[ソイナース調査結果]

医療的ケア児支援法によって、社会で積極的な取り組み体制が促進されている現代。実際にその支援を受ける医療的ケア児とそのご家族は、より暮らしやすい社会を実感できているのでしょうか?

その実態を確認すべく弊社(株式会社Medi Blanca)は、医療的ケア児支援法の施行から2年が経過した2023年に調査を実施。医療的ケア児とそのご家族のリアルな日常と、施行前と比べた支援状況への満足度について、率直な声を集めました。

【調査対象】

小児専門看護師のケアリングサービス「Soi Nurse(以下、ソイナース)」の利用者様のご家族(32名)

▼参照

医療的ケア児支援法施行から9月18日で2年 医療的ケア児とその家庭に寄り添う看護師ケアリングサービス「Soi Nurse(ソイナース)」が利用者調査を実施 | 株式会社Medi Blancaのプレスリリース (prtimes.jp)

医療的ケア児とそのご家族【3つの日常】

まずは医療的ケア児とそのご家族が、どのような日常を送っているのか、3つの要素に分けてその実態を覗いていきましょう。

  1. ケアをする時間
  2. 睡眠時間
  3. 生活の中で行いたいこと

【実態その1】医療的ケア児のケアは、1日約9時間以上

人が起きている時間は、平均6時間30分程度と言われるなか、3人に1人の方が「9時間以上」ケアしていると回答。この結果から見ても、医療的ケアを必要とするお子様と過ごす日常はかなり負担が大きいということがわかりますよね。

医療的ケアを必要とするお子様がご家族と一緒に笑える余裕のある時間をより多く設けるためにも手厚く寄り添う支援は欠かせません。

【実態その2】医療的ケア児を支えるご家族の睡眠時間は、5時間未満

調査の結果として最も多かった回答は、「5時間以上7時間未満(53.1%)」。

次に多かったのが、「3時間以上5時間未満(28.1%))。

成人の平均睡眠時間が6〜7時間と言われることを考えると、この結果からは医療的ケア児を支えるご家族のかなり過酷な日常が伺えます。

大事なお子様のためとはいえ、ご家族が体を壊してしまっては本末転倒。お子様とご家族が安心して熟睡するための支援が課題となっているようです。

【実態その3】医療的ケア児とご家族でしたい「旅行や外出」

お子様と一緒にどこかに出かける…そんな楽しい思い出を実現するためにも社会の支援は欠かせません。「旅行に行って、外の世界を体感させたい」といった健やかな成長につながる経験の実現に寄り添う支援こそが、今後目指すべき社会的支援の形なのではないでしょうか?

また2位では「自分のための時間を持ちたい」という声が浮上。ご家族がご自身の充実した人生を送るためにも、これを実現させる一時預かりの支援の促進が期待されます。

日常に関する調査結果から考えるソイナースにできること

ソイナースでは、各家庭のライフスタイルに合わせた「健やか」を提案することが大切だと考えています。そのためにも、利用者様1名に対して、5名程度の看護師が介入することで、必要な時間帯や急な依頼に利用することができる体制を実現しています。

医療的ケア児支援法への満足度

これらの日常的課題は、医療的ケア児支援法の制定によって改善されたのか、その満足度についても調査しました。

【満足度調査その1】「医療的ケア児支援法」施行前より良くなった人は約4割

(2023年時点の調査結果)

調査を行った2023年時点で、「医療的ケア児支援法」施行から2年が経過。

その時点で実際に医療的ケア児と日常を共にするご家族が感じた支援状況に対する印象は、「良くなった」という回答が9.4%。次に「やや良くなった」が34.4%でした。つまり約4割の方が、施行前よりも支援状況が改善されたことを体感していることがわかったのです。

  • 法律によって行政に要望しやすくなった
  • 医療的ケア児の存在について社会認識が広がったように感じる

このように施行後の状況改善を喜ぶ声がある一方、50%もの人が「どちらとも言えない」と回答。

その回答には、次のように課題を感じる声が込められていました。

  • 子どもの受け入れ場所は結局増えていない
  • 自分で探さないと、受け身ではなかなか支援が進まない

つまり、地方自治体が行う現状の取り組みだけでは、十分な支援を実感できたとは感じられない方が多いようです。今後医療的ケア児支援法による取り組みがさらなる発展を遂げることで、このような声が少なくなる社会になることが期待されます。

【満足度調査その2】医療的ケア児支援の制度に満足している人は56.3%

地域の支援状況に「満足している(43.8%)」「やや満足している(12.5%)」と、その声を合わせると約半数が満足度を実感。

ただし、次のような課題から十分な満足度につながらない背景も伺えました。

  • 書類を書いたり提出したりと、手続きが複雑
  • 地域の相談員との面談に予約が必要
  • 入院の受け入れ先がまだ少ない」

医療的ケア児支援の満足度向上に向けてソイナースにできること

医療的ケア児とそのご家族に寄り添うソイナースでは、これらのお声を自治体に伝えることで、社会的改善に取り組んでいきたいと考えています。

社会が抱える医療的ケア児支援の課題

では実際に、医療的ケア児支援における地域差がどのように発生しているのか、詳しく見ていきましょう。

医療的ケア児支援における地域格差

医療的ケア児支援法によって、医療的ケア児とそのご家族を支える制度はできたものの、現状では各地方自治体によって地域差が生じています。なぜなら医療的ケア児支援法に基づく事業は、地方自治体が主体となって進めるから。

つまり、地域でどのような支援体制が整うかは、地方自治体次第と言えるのです。そのため、支援サービスを求めて引っ越しをする…というケースも少なくはありません。

充実した医療的ケア児支援が整う社会を日本全体で実現するために、どこに住んでいても同様のサービスを受けられる環境づくりを実現することこそが、現時点の課題と言えるのではないでしょうか。

ソイナースが行う地域支援促進の取り組み

医療的ケア児への地域支援を充実させるためには、地方自治体がソイナースのような民間業者と協力する体制が欠かせません。そのためソイナースでは、医療的ケアを必要とするお子様の活動の機会を拡大し、ご家族の負担軽減を実現するためにも自治体へのサービス認知拡大に取り組んでおります。

医療的ケア児に対応可能な看護師の不足

2040年には日本の高齢者人口が4,000万人に達すると推計されていることから、これからの未来に向けて看護師の需要はさらに高まっていくと言われています。(※3)

しかし看護師や准看護師の需要が高まる一方で、厚生労働省の調査結果によると日本では看護職員の不足傾向が大きな課題になっています(※4)。

なかでも近年では、訪問看護の需要が高まる一方で、人材確保が困難な状況が深刻化。これによって、自宅での医療的ケアを必要とするご家庭に対して、医療的ケア児に対応できる看護師が不足している…という大きな課題が立ちふさがってるのです。

そのため常勤雇用にこだわらず、働ける人材を活かしていけるような仕組みを導入していく必要が不可欠と言えます。実際ソイナースでも、看護師のライフスタイルに合った時間帯勤務ができる体制を整えることで、より充実した医療的ケア児とそのご家族への支援の実現を目指しています。

医療的ケア児とご家族が社会と繋がる【医療的ケア児支援法】

医療的ケア児とそのご家族を、社会で支えていくための法律「医療的ケア児支援法」。医療的ケア児とそのご家族が健やかな日常生活や人生を送るためにも、そして社会が医療的ケア児への理解を深めることにもつながる大事な法律と言えます。

国や各地方自治体、教育機関などがこの法律に基づいた体制を整えることで、より良い社会づくりと明るい未来が期待できますね。

一方、医療的ケア児支援法が施行されてから3年の2024年時点では、医療ケア児への社会的支援が充実しているとは言い切れない課題が多く潜んでいます。

そのためソイナースでは、今後も医療的ケア児とご家族の明るい明日のために、しっかり寄り添うケアを実現していきます。

※1 『医療的ケア児支援センター等の状況について(令和4年度 医療的ケア児の地域支援体制構築に係る担当者合同会議)』|厚生労働省

※2 『在宅の医療的ケア児とその家族の支援に向けた主な取組(2024年3月25日)』|こども家庭庁

※3 『2040年ってどんな時代? | 届けよう看護の声を!私たちの未来へ 』|日本看護連盟

※4 『看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 (2023年7月7日)』|厚生労働省

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