医療的ケア児とは?課題や支援制度について

現在の日本における出産や新生児を取り巻く環境は、世界的に見てもトップクラスの水準と言われています。
目覚ましい医学の発展を背景に、以前では助けられなかった多くの命が救命できるようになりました。常に危険やリスクと隣り合わせの周産期医療の中で、今特に注目されているのが全国に約2万人存在すると言われる「医療的ケア児への支援」です。
難病や障害のある医療的ケア児の増加に伴い、厚生労働省は2021年6月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)を制定し、同年9月より施行を始めました。
今回は、医療的ケア児支援法についても触れながら、医療的ケア児の定義や現状、現在の課題や支援制度について詳しく解説します。

医療的ケア児の定義とは?

医療的ケア児とは、「人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児」の総称です。※児童福祉法第 56 条の6第2項より引用
障害児の定義は「身体に障害のある児童又は知的障害のある児童」であり、医療的ケア児は、身体障がい児と重症心身障がい児、また知的障害・身体的障害はないがケアが必要な字児童を含んでいます。※児童福祉法第 4 条第 2 項より引用

現在医療的ケア児の定義は、法律によって見解が異なるなどまだ不明確な部分もありますが、厚生労働省が発表した「医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、 たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと」という文言が定義として広く使われています。

医療的ケア児は、人工呼吸器や気管カニューレといった何かしらのデバイスを使用しており、経管栄養や吸引などの医療的ケアや支援を受けながら日常生活を送っています。
恒常的なケアが必要な児童や家族への支援法として、2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)が制定され施行が始まっています。

参考:医療的ケア児の定義について:札幌市公式ホームページ

医療的ケア児の数と割合

出典:医療的ケア児等の支援に係る施策の動向:厚生労働省

厚生労働省は、出生率は低下しているにもかかわらず、医療的ケア児の数は全国的に増加傾向にあるとの見解を示しています。「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」から作成された上記の表では、平成30年に約2万人の医療的ケア児が確認されており、医療的ケア児の数が13年間で約2倍と急激に増加していることがわかります。特に0歳~4歳までの増加が顕著に現れ、人工呼吸器の管理が必要な児童も乳幼児が最も多かったとの調査結果が出ています。
医療的ケア児増加に対応した医療・支援スタッフの拡充や、これまで以上の充実した支援が求められています。

医療的ケア児に関する課題

医療的ケア児の増加を受けて、政府は法整備や支援体制の強化に努めていますが、支援法も施行されて間もないことから課題や問題点も散見されます。また、医療的ケア児の存在は認知されつつあるものの、高齢者支援と比較すると体制が脆弱な部分も多いです。
現在の医療的ケア児の在宅生活は、寝る間を惜しんで介護を行う主介護者(主に母親)の自主努力の上に成り立っていると言わざるを得ません。
ここでは、現在の医療ケア児に関する課題について解説します。

(1)働きたくて出かけたくても預け先がない

在宅生活が基本となっている医療的ケア児の最大の課題は、預け先が少ないことにあります。医療的ケア児支援法の目的として、「医療的ケア児の健やかな成長を図るととも に、その家族の離職の防止に資する」とあるが、預け先がないため離職せざるを得ない状況の家族がほとんどです。放課後デイサービスや学童保育での受け入れ対応も遅れており、負担が大きくなっています。

施設側の看護師不足

施設側が医療的ケア児を受け入れられない原因として、看護師不足が挙げられます。医療ケアが必須であり、医療行為は医師や看護師にしか行うことができません。全国的に看護師が不足しており、医療依存度の高い医療的ケア児は断られてしまうことも多いとか。
また、入院するとなると夜勤で動ける看護師が必要ですが、夜勤の看護師がいないことから入院できないケースもあり、大きな課題と言えそうです。

レスパイト入院の難しさ

レスパイト入院とは、介護者の休息や一時的な外出などの目的で、病院に一時的に入院できる制度です。レスパイト入院を受け入れている病院には限りがあり、退院してもすぐに次の予約で埋まってしまうため、計画的に利用することが難しいです。また、リフレッシュや休息ではなく、検査やカニューレ交換などの名目でしか入院できない病院もあります。
身体障害のない医療的ケア児の場合、十分な観察が難しく、カニューレや胃瘻を抜いてしまうリスクから同伴のみの入院となる場合も少なくありません。

(2)相談できる場所が少ない

医療的ケア児支援法では、各都道府県に医療的ケア児支援センターの設置が義務付けられましたが、都道府県によっては開所から間もない施設もあります(令和4年4月現在)。支援センターでは、医療ケア児等コーディネーターや社会福祉士に相談できますが、福祉の専門家であるため高度医療ケアには精通していない場合も。かかりつけ医や病棟の看護師へ相談しようにも、退院後に長く話すことは難しい現状があります。

(3)子どもの急変時の対応

急変対応や医療面での不安を抱えながら過ごしている家族も多いです。日中は訪問看護が入りますが、夜間の対応は家族自身で行うしかありません。「こういう時はどうしよう」「寝たらアラームが聞こえないんじゃないか」といった理由から、不安で眠れないという悩みもあります。
また、急変時にかかりつけ医の病院での受け入れ義務はなく、急変時の対応について明確にされていない場合もあります。

参考:医療的ケアが必要な子どもと家族が、安心して心地よく暮らすために:厚生労働省

医療的ケア児の支援制度について

さまざまな課題の残る医療的ケア児の介護ですが、医療的ケア児支援法の施行に伴い、支援制度が拡充されつつあります。
ここでは、医療的ケア児の支援制度について分野別に解説します。

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」による変化

医療的ケア児支援法では、主に下記の点が大きく変わりました。

● 支援措置すなわち「努力義務」から「責務」になった
● 医療的ケア児支援のための予算が配分される
● 看護師や保健師など医療ケアを実施できる人員の拡充
● 各都道府県に医療ケア児支援センターの設置
● 小児慢性特定疾病の医療費助成の疾病数を拡大
● 救急時に素早く対応できるよう医療的ケア児等医療情報共有サービスの運用

特に表現が「責務」とより強い言葉になったことで、今後も停滞していた支援制度が見直される可能性があります。

「医療」における支援制度

医療分野においては主に医療費の助成や補助についての支援があります。
● 未熟児養育事業
● 小児慢性特定疾病医療費
● 難病医療費
支援制度を利用するためには、市町村や都道府県への届け出が必要となります。

「子育て」における支援制度

子育て支援においては、保育所や放課後児童クラブの活用ができます。医療的ケア児を受け入れている施設は少ないですが、中には政府からの補助を活用して、看護職員を配置している施設もあります。
中でも「居宅訪問型保育事業」は、集団保育が困難な保育を必要とする乳幼児に対して、小規模あるいはマンツーマンでの保育を提供しており、今注目を集めています。
市町村が窓口となっているため、市役所に問い合わせてみましょう。

「保健」に関する支援制度

保健分野では、福祉用具の給付や介護者支援事業などがあります。小児慢性特定疾病自立支援員の設置や、医療機関へのレスパイトを支援する「療養生活支援事業」もあります。
患児やその家族のための交流会の開催や、パソコン教室・個別学習指導など特定疾病を持つ患児への自立支援事業も行っています。

「障害福祉」に関する支援制度

障害福祉に関する支援制度は多岐に渡りますが、主に2種類の支援があります。

(1)日常生活支援

療育の必要性がある児に対する「発達支援事業」や、介護者の負担軽減を目的とした放課後デイサービス・短期入所などの支援事業があります。施設に入所している障害児に対して、保護や日常生活の指導を行う障がい児入所施設は、手帳がない場合でも必要性を認められれば入所できる場合もあります。

(2)手帳の交付・手当

身体上の障害がある場合には「身体障害者手帳」が、知的障害がある場合には「療育手帳」が交付されます。それぞれ都道府県への申請が必要です。
手当は、精神又は身体に障害を有する児童の父母に支給される「特別児童扶養手当」、重度障害児に対して支給される「障害児福祉手当」があります。それぞれ都道府県への申請が必要です。
毎月掛け金を収めることで、保護者が亡くなった場合でも障害のある方への手当が支給される「障害者扶養共済制度(任意加入)」もあります。

「教育」に関する支援制度

教育に関しての支援は、小中学校の普通学級に通っている障害のある児童生徒(発達障害を含む)等のための個別指導計画・教育支援計画作成や援助、教育相談・就学相談などがあります。
「特別支援教育就学奨励費」は、通学費、学校給食費、学用品費等の就学に必要な経費の援助を行う制度で、特別支援学級の児童は都道府県で、普通学級の児童は市町村での手続きが必要です。

参考:医療的ケア児とその家族への支援制度について:厚生労働省

SoiNurse(ソイナース)について

「すべての子どもとその家族が健やかに生きられるような社会をつくりたい」という想いから生まれたSoiNurse(ソイナース)。
SoiNurse(ソイナース)では、医療的ケア児における社会の課題と真摯に向き合い、医療的ケア児だけでなくすべてのお子さまやご家族に利用していただけるサービスを提供しています。
ここでは、SoiNurse(ソイナース)の主なサービス内容について説明します。

(1)訪問看護

SoiNurse(ソイナース)の訪問看護事業では、ご家族の意向を聞きつつ、お子さまの成長・発達を最大限サポートできる体制を整えています。
下記にある「在宅療養支援」や「通園・通学支援」は、医療保険にご加入の方で、医師による訪問看護指示書の範囲内であれば6歳未満のお子さんは2割負担、6歳以上は3割負担でご利用が可能です。乳幼児医療費助成制度(マル乳)もしくは義務教育就学児医療費の助成(マル子)をお持ちの方であれば交通費のみでサービスを受けることができます。

在宅療養生活の支援

在宅療養生活における支援としては、質の高い日常生活援助はもちろん、より良い療養ができるよう保護者様と一緒に考えながらケアを行っています。訪問する看護師は、小児看護について研修や講義を通してしっかり学んでおり、保育に対する知識も豊富です。
医療ケア児在宅レスパイト事業にも対応しており、訪問看護時間に加え、2〜4時間の範囲で利用でき、1年間で96時間の利用が可能となっています。

通園・通学支援

SoiNurse(ソイナース)では、保育園や学校と連携し、学校や保育園での付き添いサービスも行っています。吸引など医療的ケアの実施を行い、医療的ケア児の通園・通学をサポートしています。主治医や養護教諭との連携・調整も行っています。

コントラクトサービス(自費サービス)

SoiNurse(ソイナース)では、自費によるコントラクトサービスも行っております。「保育園に預けていないが、子供を見ていてほしい」「決まった時間に出かける予定があり子供の預け先に困っている」という方にオススメのサービスです。
医療的ケア児や障がい児だけでなく、病児や健常児も利用できるサービスとなっています。

主なサービス
● 障がい児のケア(医療ケアには医師の指示書が必要)
● 病児や病後児のケア
● 習い事や学校から帰宅までの送迎

まとめ

医療的ケア児を持つさまざまな保護者の声もあり、医療的ケア児への認知は広がりつつあります。支援法の施行に伴い改善された部分も多い反面、まだまだ解決すべき課題も残存しています。より多くの医療的ケア児や、そのご家族を支えられる環境を、社会全体で考えながら整えていかなければなりません。
SoiNurse(ソイナース)では、お子さま本人はもちろん、医療的ケア児を抱えるご家族も継続的にサポートできる体制を整えています。
少しでも気になった方は、お気軽にご相談ください。

>>お問い合わせはこちら


【参考文献】
医療的ケア児に対する小児在宅医療の 現状と将来像:中村知夫

 

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について:厚生労働省

医療的ケア児とその家族への支援制度について:厚生労働省

愛知県医療ケア児者実態調査の結果報告について:厚生労働省

障害者自立支援法等の一部を改正する法律案の概要:厚生労働省

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